広沢タダシ 「birth」スペシャルインタビュー

多角的にみるアルバム『birth』

■アルバムの構想

去年、ライヴアルバム『Hirosawa Tadashi Trio Live -echo chamber-』を出した時点で、このトリオでのスタジオ盤を作りたいと考えていました。僕の中のファンキーな要素、僕のスタイルでもあるアコギのカッティングに、ロックの魂が宿った野性的なビートが中心にある。そこで僕は歪んだ音でエレキも弾く。それがこの3人によるバンド、そして今回のアルバムのイメージです。

トリオでのライヴ同様、豊かな音響の作品にしたいとも考えていました。音の響かせ方、ディレイの使い方にもこだわった上で、その音像にする必要性、なぜその音像になるのかが伝わるような言葉、それらがマッチしたものを作れないかと。

そしてその結果、自分の中の闇の部分、根底に流れる何があっても揺るがない、鬱陶しいのにも関わらず自分の一部になっている認めざるを得ない部分、そういうものにグッと近づくことができた。そんなアルバムに仕上がったと思っています。

■アルバムタイトル

制作の途中から「birth」という言葉がアルバムの中核にくるだろうなという感じはありました。何か生まれる瞬間の映像としてのイメージ、滲んでいて、どこか曖昧でぼんやりとしたもの、これはどこから来たんやと。それが音にリンクした時にハッとしましたね、これは「birth」やと。

■バンドメンバー

Bass: 高井城治

彼は元々ギタリストで、これまでのアルバムやライヴではギタリストとして参加してもらっていましたが、彼の音楽性、リズムの感じ方は「ベースに合うな」と。たまに遊びでベースを弾いているのを見ていると、指も強い。そこで「弾けるか?」と訊いたら「弾ける」と。僕は確信がありました。リズムの取り方、フレーズの種類、ベーシストにはいろんなタイプがありますけど、彼のフィーリングは今回のような荒くれたファンキーな感じを出すのにピッタリだった。聴いてくれたらわかります、大当たりでした(笑)。

Drums: 中村優規

その精神性も含めて最も信頼できるドラマーです。とにかくストイックな人で「もっといい音がないか」と常に研究しているタイプ。プレイを探っては練習して、ドラマーとしての体作りもして、しょっちゅう楽器も買ってる(笑)。「楽器を探す旅は、もうこれで終わった。これで揃った。これで決まった」って言った次の日に「スネア買った」「シンバル買った」と言ってるような人です(笑)。自分の世界観、孤独な部分も、すごく理解してくれている。だからすごくやりやすかったですね、それは音に滲み出てると思います。

■ギター

ギターはアコギとエレキと半々くらいで弾いています。アコギに関しては「ファンキーなビートをアコギで弾く」という発想でプレイしています。デビューの時からそのスタイルではあったんですが、今回はそれを前面に出そうと。

今回、十数年前に使ったアレキサンダーというギターを引っ張り出してきました。カッティングに映えるギターで、どんなに強く弾いても一音、一音が絶対に潰れない。そして自分のニュアンスをどこまでも再現してくれた愛すべきギターです。

リズムに関しては、ここ十何年で意識してきたように、そこにキッチリとはめこんでグルーヴの中に埋まってしまうのではなく、リズムはバッチリでも、どこか浮いて聞こえるようなものを目指しました。人に100%合わせるだけでは出てこない、自分のグルーヴをもっているからこそ浮き立つようなものを。それは自分のノリと二人の感じているノリが、うまく絡み合った時に初めて生まれる現象なんですよね。メンバー選び含めて、すごくうまくいきました。いいアコギが録れたと思います。

エレキはこれまで弾いてこなかったわけではないですが、あまりイメージにはない楽器で。でも今回の、自分の深いところで煮えたぎったものが爆発するイメージを表現するには不可欠なものでした。ディストーションで歪ませる手法というのも自分にとってはチャレンジだったし、自分のギターがリードを取るのも初めてだったので楽しかったですね。ギタリストとしてもステップアップできた気がします。

■アレンジ

最も重要視したのはやっぱりビート、なるべくアレンジをしないことが最大のこだわりといえばこだわりです。セッションの中から何が生まれるか、何がキャッチできるかということですね。僕はずっと言葉を大切にした曲作りをしてきましたが、言葉にもリズムはあるんですよね。言葉のはめ方ひとつで聴こえ方が変わってきますしね。

■歌

曲自体が、たとえばAメロがあってBメロがあって、サビがきて大サビがあって、という編成ではないので、いかにその世界観を出すかというところが重要でしたね。もちろんメロディはあるけれど「メロディを歌いあげる」という感じではないので、基本となるグルーヴの中でいかに言葉を浮き立たせるか、音符ではなく言葉を歌うというイメージ、それをすごく意識しました。特に「あの丘へ登ろう」の歌い方は悩みましたね。物語とその景色が全部体に入ってないと歌えない、これも大きなチャレンジのひとつでした。今回は、街中で思い出して口ずさむような歌もない、テレビから流れる歌のように受け取るだけのものでもない。だから本を読むように聴いてもらえればと思います。

■インスト曲「rebirth」

言葉無しで言葉を語る、そういうイメージです。旋律、滲み方、音色から映像がイメージできたり、そこから哲学が生まれてくることはきっとあるはずだと。インストといってもいわゆる流暢なものではなく、より詩的なサウンドというか、言葉が浮かぶような曲を書きたいなと思いました。小説を書くようなイメージですね。

■レコーディング

基本的には3人で「せーの!」でドーンと(笑)。今回は綿密にアレンジをして、事前に準備をして、という感じではなく、弾き語りのデモ音源だけを聴いてもらって、そこに彼らのアイデアをそれぞれ持ち寄ってもらうという、バンドらしいやり方でレコーディングしました。わざとたくさん余白を残した状態でスタジオに入っているから、その時のノリで演奏も変わってくる。だからいかにファースト・インプレッションを大切に、いかに構築しないかということを心がけましたね。ただ、やり直しがきかない分、最初から最後まで、ものすごい緊張感溢れるレコーディングになったのですが、3人の初作品としてフレッシュなものが出来たのではないかと思っています。とはいっても、爽やかな作品ではないですが(笑)。

■アルバムが完成した今

僕は子供を産んだことがないし、これから産むこともないですが(笑)、自分の中から何かが生まれる瞬間、そのイメージはずっとありました。でもイメージしていたものと産んでみるのとでは雲泥の差があるのも知っていた。だからこの作品が出来上がった時に初めて「これか」と実感することができました。とても感慨深いものがあります。

■広沢タダシにとっての『birth』

削ぎ落として削ぎ落として、最終的に残ったものは言葉でした。僕の根底にある何か悶々としたものをしっかりと捉えることができたような気がします。自分でも自覚していたし、見えてもいたけど、それを突き詰めれば突き詰めるほど、どんどん怖くなる。怖くなって怖くなって、その結果がこの作品なんだと思います。理性だけではないもの、それを歌える心の状態にまで来ることができた。そしてこのサウンドがあることによって迷いなく歌うことができた、そういうことだと思いますね。

このアルバムを作ったことによって僕自身、きっと救われることがあると思います。そしてあらゆる意味で振り切ることができた作品だからこそ、また次の作品に向かえそうな気がしています。

インタビュー/文:篠原美江

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